「南北問題」とは何でしょうか?
このブログの最初の記事としては、あまりにも壮大なテーマを選んでしまいました・・・。
私は、コロンビアの紛争被害を受けたコーヒー生産者の直接的な支援を行い、産地もたくさん訪問してきました。このテーマは、このブログをとおして現場目線で伝えていきたいことの原点なので、頑張って書いてみようと思います。
また、他のサイトから引用している図表もありますが、使用している写真のほとんどは私がコロンビアの産地などで撮影したものです。
この記事に関心があるかもしれない人
- コーヒーのことをよく知りたい人
- コロンビアに渡航を計画している人、興味のある人
- 南北問題に興味のある人
- 生産国と消費国で飲まれるコーヒーの違いを知りたい人
- コーヒーの産地や生産者について興味のある人
- 持続可能な社会を達成したい人
コーヒーの裏側にある問題とは
私たちコーヒーラバーは、毎日コーヒーを何杯も、あたりまえの習慣として飲んでいます。
すでに生活の一部になっていますが、このコーヒーのことをどれくらい知っているのでしょう?
みなさんが今日飲んだ(でいる)コーヒーはどの国から来たのでしょう?
そのコーヒーはどんな人がどのようにして作ったのでしょう?
あなたが支払った代金によって、コーヒー生産者の生計は成り立っているのでしょうか?
もし、これらの問いにコーヒーを飲む全ての人の関心がなければ、どうなってしまうのでしょう?
私たちは、できるだけ安く、できるだけおいしいコーヒーを買いたいですよね。
でも、今まで飲んだこともないくらいおいしいコーヒーが、めちゃめちゃ安く買えたとしたらとてもハッピー。でも、その特別なコーヒーを努力して作った生産者はハッピーだったのでしょうか?
こんなにおいしいコーヒーなのに、安く買えたということは、それなりに取り分も少ないかもしれません。
農業って大変ソウ・・・、ってことはみんな感じてますよね。コーヒー栽培も半端なく大変です。私は、急斜面でコーヒーの実をていねいに手摘みする農家さんが朝から晩まで汗水たらしている姿を、コロンビアでたくさん見てきました。現地で作業をお手伝いさせてもらったこともありますが、全く戦力になりません・・・。
一般的に流通しているコーヒー豆(コモディティ)の買取価格は、国際市場が決めます。値段があがった時に売れれば良いですが、下がった時に売ったら、手取りが大きく減ります。でも、値が上がるまで待つなんてことできません。袋に詰めたら早く現金化しないと今日、明日、家族が生活できないからです。
途上国の生産者は市場動向の情報を得る手段やより有利な市場へのアクセスを持たない小規模農家ばかりであるため、中間業者に頼らなければいけないケースがほとんどです。それが生産者の弱みなっていて、仲買人の中には、市場価格よりさらに安く買いたたく人たちもまだまだいます。
さらに、最近では、農業資材の価格高騰も激しく、せっかくコーヒーの市場価格があがってもそれ以上に支出が増えて経営を圧迫しています。
どれだけ苦労して良いコーヒーを作っても、まったく収入があがらなければ、みんな作ることをやめてしまいますよね。次の担い手もそれを見ています。そうなれば、いつの日か、私たちはコーヒーが飲めなくなってしまうかもしれません。
コーヒーの生産国と消費国
今日の飲んだコーヒーはどこの国の生産ですか?ブレンドなら何か国か混ざってますよね。
2024年1月29日、国際連合食糧農業機関(FAO)から発表された2022年の生産量ランキングトップ20は次のとおりでした(単位:トン)。(出展:GLOBAL NOTE)
1 ブラジル 3,172,562
2 ベトナム 1,953,990
3 インドネシア 794,762
4 コロンビア 665,016
5 エチオピア 496,200
6 ウガンダ 393,900
7 ペルー 352,645
8 インド 338,619
9 ホンジュラス 315,490
10 中央アフリカ 306,901
11 ギニア 261,645
12 グアテマラ 225,500
13 メキシコ 181,706
14 ラオス 171,000
15 ニカラグア 170,181
16 中国 108,000
17 コスタリカ 79,200
18 コートジボワール 70,000
19 タンザニア 67,200
20 コンゴ民主共和国 58,837
生産国を地図に表すとこんな感じ。
何か気づきませんか?
だいたいみなさんが飲んだ今日のコーヒーは、この中のどこかの国のものかと思います。
実は、世界のコーヒー産地は、赤道を中心に、北緯25度~南緯25度の間にあります。基本的にこの緯度の範囲内でしか商業的な栽培というのはできません(気候変動の影響により少しずつ変わってきていますが、それはまた別の記事で!)。
この「コーヒーベルト」と呼ばれる産地のほとんどの国々はかつての植民地であり、いわゆる開発途上国とよばれる貧困国で、今もなお借金を抱える債務国です。コーヒー労働のために、アフリカ→中南米につれてこられた奴隷の子孫も多いです。紛争、児童労働、ジェンダー差別、などなど多くの黒歴史を経験してきた地球の南側に位置する国ばかりです。
外貨を稼ぐためにはコーヒーを作って輸出するしかない、という国がたくさんあります。作れば作るほど、国際市場でのコーヒー価格は下がり、農民の生活はさらに苦しくなっていきます。しかし、買取る側である食品産業にとっては、原料が安く入手できるということを意味します。
コーヒーをたくさん買っている消費国とは、どこでしょうか?
そう、私たち日本の他、欧米諸国がほとんどを消費しています。つまり北側の先進国の国々です。
以下は、コーヒー輸入国ランキングトップ10(出展:USDA「World Markets and Trade」2023/2024年)。
1.欧州連合(EU) 47,000
2.米国 24,000
3.日本 6,200
4.ロシア 3,500
5.スイス 3,500
6.カナダ 3,100
7.韓国 2,800
8.英国 2,600
9.コロンビア 2,300
10.中国 2,000
(単位:袋=60㎏)
北側にいる先進国の人たちはコーヒーで儲かったりおいしいものを飲んだりハッピーだけど、南側にいるコーヒーを作る開発途上国の人たちは一向に儲からずむしろ貧しくなっている現状も少なくありません。富める者と貧しい者の経済的・社会的な「格差」がどんどん広がっている状態をコーヒーが生み出してしまっているのです。
これが、コーヒーが「南北問題の縮図」と言われるゆえんです。
世界の大きな問題を「グローバルイシュー」といって、多くの課題がありますが、そのほとんどは、この「格差」が生んでいるのではないかと、国際協力の現場に関わってきた私は考えます。もちろん、グローバルな南北問題や、コーヒーの生産者・消費者の格差問題といったことは、今まで述べてきたこと以外にも複雑な要素や国の事情によって異なります。また、多くの人たちが様々な支援や取り組みを行っているのも事実です。
もしかすると、コーヒーを飲めば飲むほど、知らずのうちに生産者を苦しめているかもしれない、と思えば、おいしさも減ってしまう気もしますよね。
生産国で飲むコーヒーはまずい!?
生産国でももちろんコーヒーは飲まれています。生産国のスーパーではおそろしく安いコーヒーが売られておりますが、喜んで買うと、その多くは私たちがいつも飲んでいるものとは別物です。苦い、酸っぱい、エグい、、、頑張って飲み干すとお腹が痛くなってくることも。
小規模生産者の多くは、ハンドドリップなんて知らないし、大きな鉄鍋で煎ったものを粉にして、砂糖をたっぷり入れて飲みます。特に生産者は自分たちが作っているコーヒーのおいしさを知らなかったりします。実際、生産国の中でも、産地に近づくほどまずくなってくることが多いものです・・・。
あのおいしいコロンビアコーヒーを、コロンビアで飲むとまずくなる?なんて、なかなか信じられないですよね。
100%コロンビアコーヒーで有名な「エメラルドマウンテン」。これは、トップ3%未満のクオリティとして選別されたものを、私たちは購入できます。でも、その下の97%、いや、それより下の30%くらいの豆ってどうなっているの?捨てられちゃうの?と気になりませんか?
いいえ、捨てられていません。コロンビアでは、農家を保護するために、全てのコーヒーが買い取られる仕組みになっており、選別されて国内販売に回っているのです。カビ豆・黒豆なども、普通の豆と混ぜて深~く焙煎し挽かれて、立派なコーヒーとして流通しています。
私もコーヒー買取所で直接見せてもらいましたが、ボトム30%くらいになってくると、カビている豆、極小豆、真っ黒な豆、虫食い豆だらけで、中には小石や枯れ葉が混ざっているものもあり、もはやコーヒーじゃないじゃん!(笑)というクオリティでした。
ただ、このローグレードのコーヒー、私たちはまずお目にかかることはありませんが、しっかり農家さんたちの大切な収入源となっていることも事実なのです。
おいしくて良質な豆は私たちのために先進国に輸出され、まずくて粗悪な豆は国内消費に。生産国がおいしいコーヒーを外に出して、まずいコーヒーを消費しているなんて、なんかモヤモヤしてきますよね。
私たち消費者ができること
いつまでもおいしいコーヒーをいただいていくために、私たちは、もっと生産者のことを大事にしていかないと思います。おいしく安いコーヒーを飲んでいる裏にこのコーヒーの生産者はハッピーになれているのか、生産者のことを考えてみることから始めてみませんか?
2015年に国連が定めた「持続可能な開発ゴール(SDGs)」では、南北問題の解消がひとつのテーマとなっています。特に、ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」は、まさに先進国と開発途上国、生産者と消費者、コーヒーに関係する人たちが、協力して解決しようという取り組みです。
そのために、コーヒーラバーの私たちにできることといえば、
- 生産から私たちのもとに届くまでの過程を調べてみる
- 関連したイベントやコミュニティに参加してみる
- わかった情報を発信してみる
- 産地や生産者のことがわかるコーヒーを選ぶ
- 農園ツアーに参加して生産者の話を聞く
と、いった行動をおこしていくことなのかな、と考えます。
とくに、生産者情報のあるコーヒーを選んで産地を想像しながら飲むと確実に違った味になりますよ。できれば生産者たちにも、誰が自分たちのコーヒーをどう飲んでいるのか、知ってもらいたいですね。
私なりにこれらのことを実践していくために、コロンビアの生産地で見て、触れて、考えたことを、できるだけ多くのコーヒー好きやコーヒーに関心のある人に、このブログを通じてお届けしていきたいと思っています。
思うことや、こんなテーマを扱ってほしいなどあれば、ぜひご意見頂けると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!