コロンビアで生産されるコーヒーは、この国の特徴を大きく代弁しています。コロンビアコーヒーは、コロンビアの歴史・文化・人・自然がみごとに凝縮されて創り出されたものだと思います。
今回は、ブログ第2弾なので、私がコーヒー豆を買い付けている「コロンビア」について、5年半実際に住んでみての印象をコーヒーと関連づけながら紹介してみたいと思います。
このブログに関心があると思われる人
- コロンビアになんとなく関心がある人
- コロンビア渡航を計画している人
- コロンビアコーヒーの背景を知りたい人
- コーヒーと平和の関係性を知りたい人
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コロンビアの偏ったイメージ
「コロンビア=COLOMBIA」というと、みなさんどんなイメージがあるでしょうか?
アメリカの州や大学の一つ、「COLUMBIA」とは一字違いですが、もしかすると知らなかった人も多いかと思います。音楽の日本コロムビア社も「COLUMBIA」です。空港などで、こんなグッズも売れられています(自虐ネタ?)。
日本から遠いというのもあるけれど、コロンビアのなんとなく治安が悪いイメージが先行して、なかなか日本人がコロンビアを気軽に訪問することができません。サッカーワールドカップでも2度連続で対戦したし、親しみは増えているけど、まだまだ「コロンビアに行くぞ!!」という人はなかなか少ないのではないでしょうか。
コロンビア人にも、「日本人はコロンビアをどう思っているんだ?」とよく聞かれますが、こう答えています:
ーーー残念だけど、正直言うと、みんな危険な国と思ってる。内戦、ゲリラ、デモ、麻薬、暴力・・・、日本で流れるニュースはほとんど偏っていて、良いことはあまり聞かない。でも、一方で、実はポジティブな印象もあるんだ。サッカー、コーヒー、サルサやズンバ、陽気で明るいラテン気質、そして美男美女の国!男性全員はハメス・ロドリゲス、女性はシャキーラだ!と、日本人に紹介しているよ(笑)。
それだけに、両極端なイメージが先行して非常にミステリアスな国であるというのが、(コロンビアに来たことない)多くの日本人の感覚ではないでしょうか。
コロンビア地図
あらゆるものが多様な国
コロンビアは、南米の北西部、赤道を含む位置にあります。日本の3倍ほどの国土に、日本の1/3の約5200万人が住んでいます。地方への移動はほとんど飛行機利用。年々人口は増えていて、若くてエネルギッシュな国です。
鉱山資源も豊富で、石油や金、エメラルド、農産物はコーヒーの他、バナナ・カカオ・花などです。紛争が長く続いているわりに、金融制度もしっかりしていて、今まで一度も通貨危機など陥ったことがありません。公用語としてきれいなスペイン語が話され(語学を学ぶには良い国です!)、英語もある程度通じます。将来絶対有望な国です。
コロンビアを一言で言うなら、「多様性」という言葉がぴったり。地域で言えば、アンデス山脈の山岳地域、太平洋岸地域、カリブの島々、内陸アマゾン地方など、自然形態が多様です。人種で言っても、混血(メスティーソ)、白人、アフロ系、先住民など多様な人種のるつぼ、みなそれぞれの価値観や考え方の中で生活しユニークな文化を生み出しています。
コロンビア人の友人や仲間の中にも、非常に個性豊かで異なった考え方の人たちが多いです。仕事では、良くも悪くも常に異文化理解力を鍛えられます。地域性も強く、スペイン語のアクセントや単語が県によって違ったり、性格も地域によって特徴的であることが面白いです。みな優しく明るいところは共通事項として、真面目でインテリな首都に住むボゴタ人、とにかく陽気だけど時間や約束にルーズなカリブ海岸の人、とにかくよくしゃべるB型タイプのパイサ(アンティオキア県の人の意)、大人しく古風な?ボジャカ県の女性、人懐こくて温厚な中部コーヒー生産地域の人たち・・・。などなど、どの県の人はどんなだ、みたいな話はコロンビア人もそれぞれ持論があるらしいです。それでも、みんな自分たちの地域に誇りを持っていて一番と思っているようです。
よく「南国だから暑いんでしょ?」と聞かれますが、私の住んでいた首都ボゴタ市は赤道に近いけれど標高が2600mと高地にあります。なので、一年中10~20℃と冷涼、ていうか結構寒めです。日差しが強いので、晴れていると暑いですが、乾燥しているので快適です。緯度は低いから、一年中あまり変化がないのですが、日本の春のような感じ。その代わり一日の寒暖の差や天気も変わりやすいので、1日の中に四季がある感じです。しかも、実は国土のほとんどが北半球なんですけどね。
コーヒー産地といえば、1000~2000mと標高が高いところがほとんどで、気候はボゴタとあまり変わらないか、少し暖かいかといった感じ。ただ、海岸沿いや低地の内陸部はやっぱり暑いですよ~。1年中、1日中変わらず暑いので、一般的に想像される南国の気温イメージに近いかもしれません。暑いところもあり、寒いところもあり、結局は「地域によってさまざま(多様)」になります。。。地方に行くときは、どこに行くにしても、お天気ページで確認しないと服装選びに失敗します。
ちなみに、コロンビアを南北に縦断するアンデス山脈の麓につづく緑豊かな丘陵地帯は、おいしいコーヒーづくりに欠かせない条件をクリアした世界的にも稀少な土地ともいえます。低地の暑いところでは栽培はしていませんが、地域によって雨季/乾期が異なるため、色々な地域で一年を通じて新鮮なコーヒーの豆が収穫できるのです。広い国土の中にこれだけ多様な地域や気候があるということは、コーヒーの味も「多様化」しています。
日本で販売されている多くの「コロンビア」コーヒーは品種名などではなく、単に「コロンビア産のブレンドコーヒー」というのが正しいと思います。これだけ地域によって気候も土壌も違い、そこから多様な味や特徴が生まれているので、産地表記のないコロンビアコーヒーは、すでに「ブレンドコーヒー」だと思います。
コロンビア最北地域産の「シエラ・ネバダ」と最南の「ナリーニョ」は、当たり前ですが別モノです。だって、コロンビアの面積(約1.1百万㎢)と、例えば、中央アメリカ6か国の面積合計(約0.5百万㎢)を比較したとき、グァテマラとエルサルバドルとコスタリカとパナマを混ぜて「セントラルアメリカコーヒー」として商品化してるようなものかなと。まあ、そう単純に比較もできませんが。
格差が対立を生み、紛争に発展
コロンビアの根強い問題は、この多様性も少なからず関連しているとおり、やはり激しい「格差社会」です。お金持ちと貧困層、都市と農村部、男性と女性、政治・経済・社会それぞれの分野での格差が明らかに拡大しています。
ボゴタなどの都市部では、「エストラート」という居住地区をモザイク状に分類した政策がとられています。これは、レベル1から6まで行政区分されており、番号の高い地区ほど税金や公共料金、土地代などが高くなります。反対に番号が低いほど、安くなります。そのかわり、治安維持や生活インフラふくむ公共サービスにも、レベルの高いところへは手厚く、低いところはあまり手がつかないということになります。
だから、私たち外国人は安全・快適にレベルの高いエストラートの地区に住むため、ほとんど治安の悪さや生活の不便さというものは感じません。一方、エストラートの低いところは、行政サービスが脆弱で生活インフラも整備されていないので、どうしても貧困層が増え、犯罪も増えるため、タクシー運転手でさえ行きたがらないところとなります。
この格差は、どの家庭に生まれるかということによって大方決まってしまい、社会構造の仕組みが逆転を許しません。それ故、社会の不満がたまり衝突がたびたび起きてきました。
政治的な対立も建国以来、根強かったのですが、この拡大してきた格差社会の代償となる分断と衝突が、1960年代から50年以上続いてきた「コロンビア内戦(紛争)」です。不公正・不平等・搾取の連鎖が、民衆の不満を高め、左翼ゲリラによる反政府活動を生み出してしまいました。
紛争被害が大きかったのが、ゲリラ戦の行われた地方農村部です。不運にも、山岳地帯にあるコーヒー農園は、資金源となる麻薬栽培や軍事拠点にとして武装勢力の標的になりやすく、多くのコーヒー農家が巻き込まれました。殺害、誘拐、拷問、強迫、地雷被害、土地家屋強奪など暴力の対象となり、国民の6人にひとり、800万人を超える国内避難民が発生しました。こういう負の側面が、今もなおコロンビアのイメージを大きく損なっています。
それでも、2016年に歴史的な「和平合意」が最大左翼グループ(コロンビア革命軍:FARC)と政府の間で結ばれ、コロンビア政府は、紛争被害者の補償や地方振興策など、懸命に格差是正に向けた改革を全力で行っています。その当時のサントス大統領はノーベル平和賞を受賞しています。そのおかげもあり、2010年ごろからようやくコーヒー農家も自分たちの土地に帰還が始まりました。
もちろんゲリラが去り、自分の土地に帰還したからといって、一度破壊された農村の生活・社会・経済はすぐには戻りません。コーヒー農家も紛争影響や担い手不足などの問題で、多くの農家が廃業に追い込まれてしまったと聞きます。
それでも先祖から受け継がれてきた農園を引き継ぎ、家族のいのちとコーヒーを懸命に守り続ける農家がまだまだたくさんいます。政府も過去の紛争を自分たちの責任でもあると認め、地方改革をはじめ持続的な平和構築に向けて全力を尽くしています。コーヒー消費国にいる私たちは、そんな想いを受け止めて支えていかねばならないと思います。
コロンビアの紛争とコーヒー農家の話は、私がこのブログを書く理由のひとつでもあるので、別の記事でじっくり紹介したいと思います。
コロンビアは行くべきか?
コロンビアは、まだまだ反政府武装勢力がおり公式にはまだ紛争状態です。ただし、戦闘があるのは地方農村部や都市の一部の限られた地域であり、安全に楽しめるところがたくさんあります(深夜の女性一人歩きとかはもちろんやめた方が良いですが!)。私は、いつの日かコロンビアの農園に日本のコーヒーラバーたちをご案内することを夢見ています。
しかし、知らない地方の農村に準備なく一人で立ち入るにはまだまだ危険が伴います。私もコーヒー農園のある農村に入る時は、地元警察に立ち入り、現地の治安情報(ちなみにインフラが脆弱なので災害情報も重要です)を確認するようにしています。
この記事を書いている2024年時点では、都市部ではエストラート低層地区(1~3)、地方部では、ベネズエラ国境沿い地域、南部県、太平洋岸県、などが、基本的に渡航に注意が必要です。もし、渡航をお考えであれば、必ず外務省安全情報ページや現地情報の事前確認をお勧めします。
それ以外の地域は、コーヒー景観のユネスコ世界遺産、美しいビーチや島、生物多様性に富む雄大な自然、保存状態の良い古代遺跡、個性豊かなアートストリート、伝統文化の残る歴史地区など、すばらしい場所がたくさんあります。しっかり安全情報をとり、常識的な行動を心がければ十分楽しめます。コロンビアの多様な社会を満喫するでしょう。
私の知る限り、短期もしくは長期滞在された日本人でコロンビアのことを悪く言う人に会ったことがありません。愛情豊かで、人なつっこく、コーヒーがうまくて、行く先々で色々なものに出会えて、訪れる人はみな、コロンビア愛にあふれています。一人でも多くの日本人に「多様な」コロンビアを訪れてほしいなと願っています。