サステナブルなコーヒーについて考える

サステナブルコーヒー

最近、「サステナブル」な暮らしや取り組みをする人や組織が増えてきましたよね。

サステナブルとは、文字通り、「持続可能な」という意味です。

これまでは、経済優先、勝ち組・負け組、自分さえよければ・・・、という今までの発想が、結局は環境汚染による公害問題とか、巡り巡って自分に還ってくる負の影響をうけて最後はみんな倒れてしまう、という持続困難な社会を作り上げてきました。

コーヒー産業も、古くは、帝国主義的な三角貿易から始まり、奴隷を使った単一作物のプランテーション栽培による、大量生産・大量供給が行われました。

それによって、一部のグローバル企業だけが大儲けをする影で、小規模な生産者やその家族の生活が非人道的に搾取されていたとか、古典的な資本主義の黒歴史を経験しました。

今では、国際品評会で入賞するより良いスペシャルティコーヒーや、安価でおいしいコモディティコーヒーの追求などが、多くの業界関係者や消費者の間では一般的な関心事です。

もちろん原産地情報や生産プロセスなどの付加情報も、増えてきました。

しかし、まだまだ産地のことに関心が低く、コーヒーの裏側にある背景や生産者の生活まで気にする人は少ないというのが実情ではないでしょうか。産地が遠く、なかなか実感がわかないというのもあると思います。

生産者たちの努力や継続的な仕事なしに、わたしたちがコーヒーを日常的に楽しむことはできません。

世界的に十数年後にはコーヒーが栽培できなくなる可能性がある!という真剣な問題もあり、わたしたちだけでなく、次世代まで、おいしいコーヒーを持続的に飲み続けたいですよね。

そんなサステナブルなコーヒーについて、考えてみたいと思います。

この記事に関心があると思われる人
✓サステナブルな暮らしに関心がある人
✓スペシャルティコーヒーが好きな人
✓スペシャルティコーヒーを売っている人
✓自分の飲むコーヒーの背景や生産者について興味がある人
✓サステナブルコーヒーについて考えてみたい人
✓これからコーヒー農園に行く人

サステナブルコーヒーとは何か

国連では、2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標(サステナブル・デデロップメント・ゴールズ:通称SDGs)を、2015年9月に発表し、多くの組織・団体も持続可能な経済活動を意識するようになってきました。

コーヒーに関しても、作り手や買い手など全ての関係者に、全てのテーマが関わっています。

このような動きに呼応して、消費者としての個人や供給を行う企業や団体の行動も確実に変わってきました。

欧米などでは、すでに当たり前の概念で商品の選択行動にも大きく影響を与えています。

国連の定める持続可能な開発目標

「サステナブルコーヒー」という言葉は、SDGsよりもう少し古く、1998年スミソニアン協会など国際環境保護団体が開催した専門家会合で初めて使われ、持続可能性を追求するための栽培・販売されるコーヒーのことをさしてきました。

コーヒーには、生産者(やサプライチェーンのアクター)が「社会」「環境」「経済」の一定の基準に参加しているかどうかを判断するために、使われる分類があります。どの分類に当てはまるかを、認定を受けた独立した第三者機関の検証により認証されたコーヒーを「サステナブルコーヒー」ということとなっています。

SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)が2001年に発表したレポートでは、サステナブルコーヒーとして「オーガニックコーヒー」「フェアトレードコーヒー」「シェイドツリーコーヒー※」の3つを取り上げています。

(※「シェードツリー」とは、コーヒーの木を直射日光から守るため、日傘のような役割をさせるために植えている木のこと)

他には、「レインフォレスト・アライアンス・コーヒー」「バードフレンドリーコーヒー」「ウーマンズコーヒー」などがあります。

さまざまなサステナブル認証

社会や環境にとって持続可能なコーヒー生産・販売というところがキーワードになっており、一般的にはこれらに配慮して認証を受けたコーヒーのことをさすのですが、どうも国際的に統一した定義はなさそうです。

ただ、疑問に思うのは、認証を受けたコーヒーだけが「サステナブル」で、それ以外は「サステナブル」ではないのか、というとそんなことはないと思います。また、認証を受けたものでも本当に「サステナブル」なのかな?と思う点もあります。

そもそもなぜコーヒーは「サステナブル」であるべきか

コーヒーに至っては、気候変動の影響で作地面積が今後半分以下に減ることが予想される2050年問題があります。

この問題では、温暖化や雨量の変化によってコーヒーベルト地帯(赤道から北緯/南緯25度までのコーヒー栽培可能地)での生産や標高の低いところでは栽培が難しくなることが指摘されています(既に2030年ごろから収量が激減するだろうという論説も出てきています)。

コロンビアのコーヒー生産者から聞くところ、栽培に必要な雨季と乾季の差が少なくなってきており、以前と比べて収量が落ちているなど気候変動の影響は実感できるレベルだそうです。

収穫期が明確でなくなってきて、一年中少しずつ収穫できるなども。すでに代替作物としてカカオを実験的に植えている農家もいました。

また、重労働であるわりに儲けの少ないコーヒー生産は、若者など担い手不足も招いており、コロンビアのどの地域においても本当に深刻です。紛争影響による耕作地放棄も少なくありません。

コーヒーに限らず、商業的利益だけ考えている農業は、大半がサステナブルでありません。在来の森林を切り崩して、その土地になかった外来種を使う農業生産そのものが、まず環境に負荷がかかるものだからです。

社会面で見ても、以前書いた南北問題の話、労働者の人権を無視するような搾取雇用、貧困の問題、生産者に不利な取引、ジェンダー問題や子どもの権利など、これまで格差拡大やグローバルな問題を助長してきました。

このように、自然や労働力の搾取による一部の人たちの経済的な利益は、短期的なものであり、長期的には作物が育たなくなったり、生産する人がいなくなってしまったり、結果的に消費者も楽しむことができなくなったりと、持続的なものではありません。

例えば、すばらしいカップスコアのウォッシュト・ゲイシャコーヒーが超安価で入手できると(そんなことは基本的にありえませんが!)、わたしたちは素直にラッキー!と思います。販売企業もたくさん売れてラッキーかもしれません。

でも、なぜこんな価格で提供できるのか、生産者の努力は対価として払われているのか、子どもは学校に行けているのか、水資源に負荷はかかっていないのか、鮮度は良いものか、など疑問も出てきます。

こうした情報が商品に開示されていないために、何も疑問も持たずに飲んだコーヒーの負の真実に、飲む人も加担していることになってしまいますよね。

コロンビアでは、違法作物栽培がまだまだ絶えませんが、それは高く買う人がたくさんいるからです。儲かる人がいる一方で、不幸な人たちがたくさん出てくる社会は持続的ではありません。

従って、いつまでもおいしいコーヒーを日常的に楽しみたいわたしたちは、こうした様々な問題を他人ごとと思わず、社会・環境・経済が持続可能(サステナブル)な意識や行動をとることが重要です。

森林の中で持続的農業を実践しているコロンビアの小規模コーヒー農家(クンディナマルカ県)

認証コーヒーは本当にサステナブル?

サステナブルコーヒーの代名詞として、「認証コーヒー」が挙げられます。この制度は基本的には、良いものだと思います。

環境に負荷をかけない有機農法や森林農法(アグロフォレストリー)、農家にしかるべき対価を支払う「フェアトレードコーヒー」、女性の地位向上を目指し女性農家のみで生産された「ウーマンズコーヒー」など、脆弱な生産者の努力を認定・保証して、付加価値(価格)を上げるという取り組みは良いアイデアですよね。

わたしも、認証がついている食品など「サステナブル商品だ~」とつい手にとってしまいます。

でも、発展途上国で農業・農村支援に関わっていた経験からいうと、「小規模農家はなかなか認証をとらない」というのも事実でした。

認証を取得し維持するには、登録料とか更新料とか数百ドル単位でかかり経営を圧迫します。さらに、その認証をとったからすぐに輸出して高収入をあげられるかというとそういった販路も約束されていません。

コロンビアのコーヒー豆買取所では、レインフォレストなど認証コーヒーに対し、市場価格より少し色をつけて買いますが、小ロットの供給では登録コストをカバーするにはほど遠い値段です。

だから、わたしが一緒に仕事してきたコーヒー小規模農家は、例えば森林の中で生産していても、女性だけで共同販売していても、認証を取ろうとする人はほとんどいませんでした。

また、仮に低品質なコーヒーでも、認証がついているだけで価値以上の値になっていたら、消費者メリットがなくリピートされないので、結局持続的でないですよね。農家側の継続的な品質向上努力というのも、当然サステナブルコーヒーの一部であるべきです。

結局は、販売企業のマーケティング戦略の一環だったり、一部のブランド農園のための価値だったりしない?それって本当にサステナブル?と勘繰ってしまいます。

現在「約2500万人のコーヒー生産者がいて、生産者のほぼ全員が開発途上国の国民で、7割が小規模の家族農家である(Petchers and Harris, 2008)」ことからすると、多くの小規模農家がサステナブル認証から恩恵を受けられないのであれば、よりグローバルな視点による「コーヒーの永続的な供給」に認証制度がつながっていない?とも思うからです。

ここで認証コーヒーを否定するつもりは全くありません。真面目に取り組む生産者の努力を価値として認め、消費者がそれを選択することは正しいです。

けれど、認証などの「有形」な形は価値を表しやすいけれど、「無形」でもきちんとサステナブルな生産活動を実践している小規模農家もたくさんいるので、コーヒーバイヤーや、消費者はそこを見極める意識も大切と思います。

紛争被害に遭い一度は断念したが生産を再開したコロンビアの小規模農家(バジェ・デル・カウカ県)

スペシャルティコーヒーはサステナブル?

日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)では、スペシャルティコーヒーを以下(要約)のように定義しています:

  • カップクオリティがすばらしい
  • From seed to cupすべての工程が適正に管理されている
  • サステナビリティ(持続可能性)とトレーサビリティ(追跡可能性)の観念は重要

「観念は重要」とは、ちょっと曖昧な表現(?)ですが、サステナブルであることはスペシャルティコーヒーの部分条件であることは確かなようです。

ただ、冒頭でも書いたとおり、スペシャルティコーヒーを選ぶ消費者行動としては、ブランドやコスパ、カップクオリティの割合がほぼすべてで、生産者の生活は二の次、という人も多いのではないでしょうか。

コーヒーは農作物で、毎年気候条件によって味が変わるのは当然です。例えば、ある年のCOE(Cup of Excellence)など国際品評会で入賞し高値で落札されたとしても、翌年も同じ値段で売れるとは限りません。

スペシャルティコーヒーを目指して希少品種を導入してリスクを取り、栽培が難しく失敗した農家も少なくありません。

いくら良いスペシャルティカップだとしても、実は、倫理的な労働体制でなかった、なんてこともあります。法定を下回る賃金や長時間労働などでピッカー(収穫に雇われた労働者)を雇用していたり、学校に行かせずに子どもを労働させていたり、コミュニティの水資源が枯渇するくらい精製に使っていたり、など、表に出ずとも現実に起こっている問題です。

こうしたどこか無理のあるものは、サステナブルコーヒーとは言えませんよね。

すべてを把握することは難しいのですがが、スペシャルティコーヒーの売り手は、できる限り生産者と直接話をするなどして、彼らの想いや持続的な取り組みを把握し、その価値を関係者や消費者に伝えていくことも大切なことだと思います。

これは、コスパやカップクオリティなどと同等に評価されるべきものだと思います。

(※家屋にあった張り紙(右)には、「訪問者様と労働者へ、この農園では、サステナブル農業の規約を実践しているので、狩猟や差別はいかなる形であれ禁止されています。児童労働や森林・川・水源の破壊はしません。環境保全にご協力ください。」とありました)

循環こそサステナブル!

サステナブルコーヒーにおける持続可能性とは、経済・環境・社会の全てが無理なく調和して「循環しながら自然に続いていく」ことだと思います。

  • 持続可能な「経済」のために必要なこと:コーヒーの生産者から消費者までかかわるすべての人たちが、持続的な取り組みやクオリティに見合った対価を公正に分配しあうこと。生産者はおいしいコーヒーを作り続け、消費者はその価値を認めた上で、市場原理に基づき自然な形でお金の循環を生み出していくこと。
  • 持続可能な「環境」のために必要なこと:自然資源への負荷を減らし、土壌・森林・水自然・生物多様性の保全に配慮する持続的農業を実践し、自然の循環の一部に参加していくこと。
  • 持続可能な「社会」のために必要なこと:生産者や労働者、そしてその家族の人権が保証され、コミュニティ全体が安全安心で幸福な生活を送れるようになること。さらに、流通過程にいるコーヒーのサプライチェーンや消費者までもが、自然につながっていくこと。SDGs的に言えば、一杯のコーヒーを巡って、誰一人取り残されない社会を実現していくこと。

サステナブルコーヒーのこんな「循環」こそ、わたしたちが「いつまでもコーヒーを楽しむ」ことにつながります。

コーヒーの味をもって消費者に伝わる
→おいしいコーヒーやストーリーへの共感が生まれる
→さらにその農家の商品が売れていく
→もっと良い生産が行われて消費者に届けられる
→他の農家や消費者もこうした取り組みにつながる。

サステナブルな暮らしへの意識が高まってきた今、もっともっとひとりひとりの行動につながって、コーヒーを通じたより良い社会が実現できるとすばらしいですね!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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